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愛する我が子へ

 投稿者:管理人  投稿日:2013年 1月 2日(水)19時56分7秒
 
TO ラウちゃん FROM オルフェ
自分の呼吸の音で意識が覚醒する。一時的にとは言え、意識が飛んでいたことが信じられなかった。
指先に力を入れてみる。感覚のなくなった手足が今どうなっているのか、オルフェには分からなかった。もしかしたら吹き飛んでいるのではないかと疑ったほどだ。幸いにして辛うじて手足は体と繋がっていた。
ぴりぴりとした痒いような痺れるような微妙な感覚がまだ残っている。それだけがオルフェが生きているのだという頼りない証明だった。
しかし、オルフェも既に悟っている。
体内の夢幻結晶は砕かれ、夢幻結晶を生み出すサンオブサンも破壊された。腹にも大きな穴を開けていては助かるはずもない。ショック死していても何も不思議がないのだ。あり余るこの魔力がなければとっくに呼吸は止まっていた。
(リッちゃんとダーリン、無事かな……)
ここへ至る前に別れた愛する2人のことを思い出す。
甘えて擦り寄ると嫌そうな顔をして邪険にするけど結局は優しくしてくれるエリス、どれだけ我が侭を言っても笑顔でかわしてオルフェをうまくコントロールするパレニー。
――会いたい。すごく会いたい。
だけど、と現実がオルフェの思考を引き戻す。
聞こえてくる声がある。自分を求めて泣く娘の声。女の子の涙はここぞというときに使わないと駄目なのに、もったいない。
オルフェは微笑んだつもりだった。それがちゃんとできていたかどうかはともかくとして。
「――…ラウちゃん……」
我ながら呆れるほどに覇気のない声だった。
感覚のない腕を無理やり伸ばす。自分の腕ではないみたいに満足に動いてくれない。もどかしい。
しかし、時間はかかったがラウの頬に手を添えることはできた。指先の感覚などとうに失っているはずなのに、触れたラウの頬はとても温かく感じられた。
「いつも、…一緒にいてあげられなくて、ごめんね?」
こぼれそうなくらい大きな目からぽろぽろと涙をこぼすラウの目元を拭ってあげられる力も今はもうない。言葉を紡ぐ以外に、何もしてあげられることがない。
悔しい――無力であることを、オルフェは初めて悔しいと思った。
だけど今は悔しさに歯噛みしている時ではない。そんな時間は、もうない。
「…ラウちゃんはママの自慢の娘、だよ。大好きラウちゃん」
発動した魔力はラウの足場の空間を消した。着地が失敗したら少し痛いかもしれないが、この空間に残しておくわけにはいかない。
尾を引くラウの悲鳴にも似た声を意識から締め出して体を起こす。
最後にもう一仕事。
口元に浮かんだ笑みを拭って、オルフェは空間を跳んだ。


TO サテナ FROM パレニー
崩壊の音が聞こえてくる。
今さら彼らに説明する必要もないだろうが、この空間は間もなく消滅するだろう。元々不安定な空間に無理やり固定化されていた空間だ、もったいないがそれも仕方がない。
空間が消滅してしまえば、この空間にある存在もすべてが諸共に消滅することは明らかだ。消滅してしまえば復活は望めまい。
強引にこじ開けた空間の裂け目に押し込んだサテナの頭をそっと撫でる。
「今までさびしい思いをさせてきたね。ごめんね、サテナ」
記憶にある限り、こうしてサテナの頭を撫でたことは片手で数えるほどしかない。それもサテナがまだ言葉も発さなかった赤子のときに。
いつの間にかこんなにも大きくなっていたことを、こんな状況で知ることになるとはとんだ父親失格だ。
背後から聞こえてくるのは崩壊の音とはまた別のしつこい怨念の雄叫び。オルフェも大概しつこい性格をしているが、あそこまでひどくはない――はずだ。たぶん。
あれはこの空間と共に消滅させないとまずい。彼らに、サテナに危害を与える存在だ。
戸惑うように見上げてくるサテナに、パレニーは柔らかく笑いかけた。
(そんなに不安がらなくても大丈夫、何も心配いらないから)
口に出さなければ伝わらないことを承知で、胸中だけで伝える。
不安に揺れる瞳でこちらを見上げるサテナの体を、パレニーはぎゅっと抱きしめた。
とても温かい。
「最後まで父親らしいこと、してやれなかったけど……だけどサテナ、私は君のことを愛しているよ」
だからここでお別れだ。
体を離してもう一度だけ頭を撫でる。
何かを悟ったようにサテナが何事か叫んだ。子供は勘が鋭い。オルフェの血が濃いせいかもしれない。
(死んで守れるものは何もない。……けど――)
こじ開けた裂け目が塞がっていくのをパレニーは見守った。
泣き叫ぶサテナの声がいつまでも耳の奥でこだまする。
最後の最後まで笑わせてあげられなかった。心残りがあるとしたらそれだけだ。
パレニーは息を吐いた。
崩壊の音が聞こえてくる。
すぐ、背後まで。


TO ライ FROM エリス
四肢がばらばらになるような感覚を痛いと言うのならば、きっと今自分は痛がっているのだろう。
他人事のようにそんなことを考えて、エリスは笑ってしまった。
思えば生まれてからずっと守られるだけの人生だった。それを疑ったことすらないというのだから我ながら驚きだ。
だけど今は違う。
守られる立場から守る立場になった。それが今のエリスの当たり前。
「なに腑抜けた顔してるのよ。男のくせに情けない」
自然と笑えている自分がいる。
こんなに痛いのに、全然痛くない。
こちらを見上げてくるリクライドの間抜け面があまりにも面白かったからかもしれない。せっかくいい素材を持っているのだから、もう少しくらいなんとかすればいいのに、と思うのは親馬鹿すぎるか。
それに何より、今さら過ぎる。
「あんたもそろそろ親離れしなさいよね。私もいつまでもあんたに構っててあげられないんだから」
広げていた腕を下ろす。痛みが感じないのと同じ原理で、疲れも感じなくなってきていた。
気づくには遅すぎるが、これはもう本格的にやばい。
死の体験は望まないうちに何度もしたが、今回のような穏やかな体験は初めてだ。
見開かれているリクライドの目の端から、つぅっと涙が伝った。少しは成長したと思っていたのに、泣き虫なところは相変わらず。
呆れるようにしてエリスは笑った。
せめて涙くらいは拭ってあげようと腕を伸ばす。指先を濡らすリクライドの涙は温かかった。
「本当にいつまで経っても手のかかる子供なんだから」
言い終わるか終わらないかのうちに、体の中心から思考が乖離していくのを感じた。
もう少し猶予があると思ったがそれは認識が甘かったらしい。
いつの間にか視界は白く染まり、間抜け面をさらしていたリクライドの顔も見えなくなった。
 
 

La treizième lune

 投稿者:管理人  投稿日:2012年 2月25日(土)01時31分41秒
 
居心地の良い場所、と言われて思いつくのは今いるこの場所だけだった。
他に候補を挙げようにも彼には記憶がないのだからどだい無理な話ではあったが、それでも彼はこれだけは確信を持って言うことができた。この場所以外に居心地良い場所はない。

理由はいくつかある。

ひとつ、静謐ではない静けさ。自分を除く生物が発する音を耳にできる静けさは、完全なる静寂なんかよりもずっと安堵感を彼に与えた。

ふたつ、世話焼きな青年がいる。ユサという名前の明るい青年は、うるさすぎない程度に世話焼きで足りていない彼の衣食住を何かとサポートしてくれる。別段サポートなどなかったとしても彼が生きる上でなんの支障もなかったが、人らしい生き方をごく自然に与えてくれる青年の存在は彼の中の希薄な感情を完全に無にすることを防いでくれていた。

みっつ、感情豊かな少年がいる。サテナという名の少年は見ていて飽きない。一秒ごとに喜怒哀楽の感情が移り変わり、ばたばたと走り回って騒ぎ立てる少年を観察することが彼の日課だった。

青年も少年も適度に彼に何かを頼んでくる。それは今までの依頼とは違う、なんの報酬もない些細なお願い。依頼がなければどうしたらいいのか分からなくなる彼のことを知っているわけでもないだろうに、彼がボーっとしているとどちらかがあるいは両方が彼に小さな頼みごとをしてきた。
庭の草木に水をやるだとか、肉が食いたいだとか、本当にどうだっていい内容のお願いばかり。
だけど彼にはありがたかった。依頼が、約束がある限り、彼は世界に在り続けられる。

『わたくしと約束をしていただけませんか?』

最後に残った約束。これだけは時間が経っても不思議と記憶から抜け落ちない。

『必ず貴方を喪失の輪廻から解放いたしますから。貴方が犠牲になる必要はもうありません』

彼女はどこから知っていて、どこまで知っているのだろうか。尋ねたような気がするがそこの記憶は抜け落ちてしまっていた。

手のひらを見下ろす。剣に限らず様々な武器を振るうその手は、どういうわけかは分からないが不思議と固くなってはいなかった。豆ひとつないし、豆が潰れた痕すらない。それは彼の持つリセットの力によるものであることを、彼は知らない。

「――――……始まりの場所」

時折浮かんでくる単語を口にする。それが意味するものが何かは知らない。
「そこは君の終点じゃない。そこは私の――…?」
記憶にノイズが走る。
駄目だ。思い出せそうにない。

「ヘル兄さーん、ご飯できたっすから食べるっすよー。今日は肉じゃが作ったっす」
階上から青年の声が降ってくる。特に食欲はないが、行かないと青年に怒られるだろう。
息を吐いて立ち上がる。



まどろみの時間は堪能したかい? さぁ、終わりを始めよう。
 

おわりとはじまりのはざまのおはなし

 投稿者:ウィアド  投稿日:2012年 2月 5日(日)23時25分10秒
編集済
 

裸足で歩く彼女の隣を、獣が寄り添うようについていく。
霧が晴れて、魔のいない未来は消えた。

だから、彼女の前に彼が現れたのは、とても当然のこと。

男が見えた所で、彼女は歩みをとめた。
離れすぎず、近すぎず。
唐突に止まった彼女を、男はじっと見つめた。
彼女は無邪気に微笑んで、そっと口を開く。


「ごめんね、とう様」


男は彼女を見た瞬間、彼女がどういうことになっているか、説明がなくとも理解が出来た。
それは漠然的に。でも確信的に。
そこにもう、愛したウルとユルはいない。
もう二人が揃う事もない。
もう四人が揃う事がない様に。
もう二度と、一つは二つに戻れない。
彼女は彼の知らない存在で。
嗚呼、でも。


「おいで。私の愛おしい娘、この手で抱きしめさせてくれ」


言い終わる前に彼女は駈け出していた。
広げた腕に、娘が飛びこむ。それを確りと受け止めて抱きしめる。
ありし日の母親のような小さい体を、父親は大切そうに撫でる。
「ウルじゃなくても、ユルじゃなくても、お前は私と彼女の娘だよ」
それは変わらないんだ、それだけは変わらないんだ。お前をどんなに疑おうと、それでも私に残るものはお前はやっぱり私の愛しい娘だということだから。
「お前が私を父と呼ぶように、私もお前を娘と呼ぶよ。どんな姿でもどんなことになっても、お前は私の娘には変わりないんだ」
優しく言い聞かせる様に言葉を紡ぐ父親に、娘は頬を擦りつける。
涙は出ない。嬉しいのかどうかわからなくなってる。でも―――満たされている気持ちと言うのは、きっとこういうことなのだろうな、とぼんやりと彼女は思った。
「おまえのことは、何て呼んだらいいのかな…」
娘の頭を撫でながら、ぽつりと呟く父親に、娘はあどけない笑みを浮かべたまま首を振る。
「ウィアドって、言ってるの。言ってたの。でも、なまえじゃないよ」
ウルでもないからユルでもないから。曖昧な時に、どちらでもないから便宜上つけた名称。
それは、「人間」と、「魔」というようなものでしかない。
彼女を表す表現で、でも決して名前ではない。
そうか、と呟く父親に娘はこくんと頷いた。
「それじゃぁ、名前を付けよう。子に名を付けるのは親である私の役目だ。ウルもユルも、彼女が名づけたんだ。私にはどうすれば分からなかったから、私には元から名があったから。だから彼女がそうしたように」
今度は私が、お前に名前をつけよう。新しく生まれたお前に。
そう言って父親は腕を緩める。娘も、そっと父親から離れた。
両手だけを合わせた状態で、その繋がれた手を見つめながら父親は言った。


だから、きっと、帰っておいで。私達の、我が家で待ってるから
絶対に、とは言わない。
うん、きっと。全てが終わったら帰ってくるね、とう様

絶対に、とは言えない。


互いに分かっていながら、それでもそっと。
約束もしないけれど、でも帰る場所だけは残して。
触れた手が、その指先がそっと離れる。
歩み始めた娘は、振り返ることはしなかった。父親はその後ろ姿をずっと見送っている。
「お前には生きてきた分の記憶がある。けれど、お前にはお前の時間がない」
其れがお前の一つの矛盾
「お前はお前の生まれに喜びを抱いている。けれど、お前はお前の存在に悲しみも抱いている」
其れがお前の一つの矛盾
「お前は二人、ウルとユルでもある。けれど、お前はそれでもウィアドでしかいられない」
其れがお前の一つの矛盾
「その矛盾が、きっとお前を追いつめる。でも、それはお前が望んだ道」
可哀相な、可愛い私の娘。歪な生き方でしか生きられない、愚かな娘。
じわり、涙が滲んで、もうすぐ見えなくなりそうな娘の後ろ姿がぼやける。

「どうしてそんな短命なところまで似てしまうかな…私のせいかな…」

模倣である彼のその特性が、彼女に受け継がれ、母親瓜二つになり、あまつさえその運命までなぞっているのだろうか。
決められた定めも、それに抗う姿も、どこまでも彼女の様で。
そう、だからこそ。
「私もお前のことを、諦めないよ。きっと、彼女もそう思うだろうから」
だってお前は私の大切な娘なのだから。

(いつかきっと、帰ってくる筈のお前の為に、私はいつまでも、私達の家で待ってるよ)



(pl:暇だった時に書いたお話、たとえばこんなお話があったとしてもおかしくない。でも文章はおかしいのであまり読まないでほしい)
 

マリア・フラグメンスの遺書

 投稿者:管理人  投稿日:2011年12月 8日(木)00時40分53秒
  ここにわたくしマリアの最後の言葉を記します。

まずはひとつ謝罪を。
わたくしをウィッツメリアと呼んでいた方はわたくしがマリアと呼ばれていることに違和感を覚えたことでしょう。
ウィッツメリア・デスシリィの名は魔導師になるために用意した名前です。本名はマリア・フラグメンスと言います。
騙しているつもりはありませんでしたが、話すタイミングを逃していました。申し訳ありません。

どなたかは分かりませんが、これを読んでいるということはソリーシャさんは亡くなられたのでしょう。
どうか彼女を責めないであげてください。
彼女は寄る辺をなくした孤独なウサギです。
力を失い、名を失い、太陽を失い、永遠に終わらぬ時間だけを残され、誰も知る者のいないこの地上へと落とされた。
地上で過ごした時間は彼女にとって悠久にも近いものだったでしょう。
誰にも受け入れられなかった彼女は憎しみを糧にしなければ生きていけませんでした。
彼女の行いは許されざる行為です。そのことに関して許せとは言いません。ただこれ以上責めないであげて欲しい。彼女は既に死という報いを受けたのですから。
わたくしは彼女と接し、彼女を受け入れようとしました。この行為がわたくしへの執着に変わると分かっていても、突き放すことはできませんでした。
彼女はとても弱い人。わたくしに縋って泣いた彼女をわたくしは愛おしいと思います。

これを託した女の子のことについても語らねばなりません。ですがすべての真実を記すことはできません。
彼女は名前をリーラウと言います。時の鎖に縛られた時の迷い子です。
霧を晴らすよりも先に彼女を縛る時の鎖を断ち切ったこと、結果的にそれが原因で霧を晴らすことができないままになってしまいました。これに関しては言葉を尽くして謝罪をしたところで許されないことでしょう。
厚かましいとは思います。ですがお願いがあります。
レトポーフのルルジャス地方にある森の中に研究所が隠されています。そこに彼女を連れて行ってあげて欲しいのです。
研究所への道を開く鍵は女の子に渡してあります。

それから。
貴方はわたくしをまだ追ってきているのでしょうか。
嘘を重ねることしかできないわたくしは、最後まで貴方についた嘘を貫き通そうと思います。
それが貴方に対する償いにはならないでしょうけれど。

わたくしは醜くも美しいこの世界を愛しています。
どうかこの世界を、最後の時まで諦めないで。

以上をもちまして、マリアの遺書といたします。
 

ある狂人の叫び

 投稿者:管理人  投稿日:2011年11月16日(水)22時55分39秒
 
愚かなマリア、君のココロはいつ潰える?
世界の白さ、世界の黒さ、君はすべてを知ろうとしたね。知ることで己の道を閉ざしたね。
嗚呼、君のココロがどんどん歪んでいく。
守りたかったモノが壊れていく。守りたかったモノが崩れていく。守りたかったモノが離れていく。
怖いね。こわいね。コワイネ。

哀れなマリア、君のコエはいつ潰える?
君が言葉を尽くすたびに君は蝕まれていくね。誰よりも自分の言葉が君をキズつけるね。
嗚呼、君のコエがどんどん擦り切れていく。
吐き出す言葉を偽善と呼ぶ。言葉を与えた他人を被害者と呼ぶ。言葉を形成した自分を欺瞞者と呼ぶ。
辛いね。つらいね。ツライネ。

罪深きマリア、君のメはいつ潰える?
君を見つけた頃から君はナミダを失っていたね。自分で棄てたんだよね。
嗚呼、君のメがどんどん穢れていく。
知りたかった真実が悲劇を生んだ。知りたかった真実が奇跡を生んだ。知りたかった真実が絶望を生んだ。
哀しいね。かなしいね。カナシイネ。

咎なきマリア、君のヒカリはいつ潰える?
小さな背中で世界を守ろうとしたね。守ることで証明したかったんだね。
嗚呼、君のヒカリがどんどん翳っていく。
他人を傷つける代わりに自分を傷つける。他人を憎む代わりに自分を憎む。他人を嫌う代わりに自分を嫌う。
苦しいね。くるしいね。クルシイネ。

愛しいマリア、君を壊したい。
 

漁夫の利を得たのは誰か

 投稿者:管理人  投稿日:2011年10月22日(土)01時48分7秒
  仰向けに転がって眺める空からは、勢いを失わない雨が無数に降り注いでいた。全身を叩く雨のせいで既に末端の感覚は失いつつある。
冷たい雨の感触をマリアはただ目を細めるだけで特に抵抗もなく甘んじて受け入れた。

「霧、止めなきゃ」
ぼんやりとしつつも、しなければならないことは次々浮かぶ。
作戦が失敗した以上は、霧が世界に広がる前に迅速に対応する必要があった。制御のタガから外れた魔導ほど悪しきものはない。

手足に絡みつく髪が起き上がろうとするマリアの邪魔をした。
こだわりがあるわけではない上に邪魔くさいのでこれが終わったら切ってしまおうか、考える。
短くなった髪を見て彼らはどんな反応をしてくれるだろうか。想像するだけで笑えてきた。


ぱしゃ、と。
水をはねる音が耳に届く。

「弱っているわたくしを近くで観察しに来たのですか?」
答えはない。
いつもの彼ならばすぐに返してくるはずなのに。

怪訝に思って体を起こそうとしたマリアはそのまま――
 

陰謀の果てにさようなら

 投稿者:管理人  投稿日:2011年10月16日(日)00時34分43秒
編集済
  「――今いいかな?」
窓辺に吊るした風鈴がちりりと涼やかな音を鳴らす。
寄りかかっていた窓辺から体を離して、彼女は緩慢な動作で声の主へと振り返った。

「オルフェに何かあった?」
「いや、あの子はまだ眠らせているよ。精神状態が落ち着くまでは封じておかないと」
こともなげに言う男ではあるが、顔に浮かばせている表情はやつれているようでもあった。

顎でソファーを示す。
ジェスチャーだけの意思表示に、彼は苦笑を浮かべることで拒否を返した。
「リクライド君の中から記憶が奪われた」
「は?」
思わず間抜けな声が出た。
布が巻かれていない男の顔を見返す。彼女は無言で話の先を促した。
「君や我々に関する記憶だよ」
「誰が? なんのために?」
「200年前に会った子たちの敵、かな。実際に抜き取ったのは修羅鬼だけど。目的は……――」
言葉を濁す男。

悟ったのは最悪の予感だった。
「……黄昏?」
沈黙。

「サテナのことも忘れているはずだ。恐らくサテナの身の安全は守ってくれないだろう」
話を逸らした男に追究の手は伸ばさない。
頭に巻いていたバンダナを外す。窓から入り込んでくる微かな風が汗で湿った髪を撫でた。
「どうする?」
「成り行きに任せるわ」
「いいのかい?」
「ちょうどいい親離れの機会じゃない。もう私がいなくてもあいつは立派な王よ」
手のひらを広げる。握られていたバンダナがするりと滑り窓の外へと落ちた。
 

八番目と三番目と一番目

 投稿者:管理人  投稿日:2011年 9月15日(木)00時18分18秒
 
「君は詐欺師だね」
戻ってきた彼女に対する彼の第一声はそれだった。
この場所に彼がいること自体おかしな話ではあったが、告げられた内容もまた不可解極まりない。とっさにいつもの軽口を返すこともできなかった。
「……いきなりでござりまするな」
「感想だよ」
悪びれることなく彼が言う。付き合いは長いが、そういえば彼が後悔や反省をしているところを見たことがない。
彼女は軽く吐息した。

「彼らを騙して君に得があるの?」
「ないとは言えませぬが……貴方こそ嘘ばかりではござりませぬか」
「そんなことないよ」
「どの口が言いまする。その気がないことばかり言っているではありませぬか」
彼が首を傾げてみせる。本気で心当たりがないのだろう。無意識に口走っているのだとしたら、たちが悪いにも程がある。
今さら彼に何かを期待したわけではないのに妙な落胆を味わった。
「マリアを壊したい、と言っておりましょう?」
「言ったね。壊したい」
「それが嘘ではござりませぬか」
彼から返事がなかったのは狼狽えたからではない。そんな感情表現ができる人物なら彼女としてもありがたかった。
「嘘じゃないよ。本当に壊したいと思ってる」
「……では言葉足らずでござりまする」
「そんなことないよ」
あくまで納得できないらしい。
彼女はまた吐息してかぶりを振った。彼相手にこのやりとりは不毛でしかない。
「見てごらん。珍しい客が来たよ」
話の矛先を変えたかったのか、彼が彼女の背後を示す。

振り返るまいかどうかを彼女は思考の空白部分で刹那だけ考えた。訪問者の顔を見たくないというただそれだけの理由による逡巡だったが、結局は彼女の置かれている責任と立場が優先された。
「わざわざ貴女から出向いてくるとは思いませんでした」
誰に向けると同じ友好的な笑みを訪問者に向けて告げる。訪問者はただつまらなそうにしているだけで応じてはくれなかった。予想通り過ぎる反応に呆れるのも面倒くさくなる。
「手に入れたのであろ? 受け取りに来た」
何を、と反射的に返しそうになってやめた。
不毛だ。相手とのすべてが。
「固執しすぎではありませぬか?」
頼まれていたモノを手渡しながら告げる。
訪問者は答えるどころか礼すら告げずにさっさと消えてしまった。自分勝手な態度もこう堂々とやり遂げられると、清々しさすら感じるから不思議だ。

「一番目は焦ってるんだよ」
「でござりましょう。マリアを抹消せねば立場がなくなりまする」
「そのためなら嫌いな君を頼ることも辞さない」
相変わらず他人をよく見ている彼らしい分析だ。否定する要素がどこにもない。
「時が動くね」
「そうでござりまするな」

 

―ウル&ユル―

 投稿者:ウィアド  投稿日:2011年 8月17日(水)05時01分41秒
編集済
 


空白へと戻る刹那のウィアドが、それでも尚「諦めたくない」という意思によって出てきた擬似人格とも、過去の記憶から蘇った亡霊とも言える存在。
本来ならカエサルの物はカエサルに、ウィアド(空白)は空白へと戻り、それに伴って肉体も本来の運命に従い停止する筈だったところを、ウィアドが再構築するまで体を再び鼓動させるためにいる。
ウィアドの過去の二人でありウィアドではないが、ウィアド自身でもある。
既に約束を果たされている上、結局はウィアドの存在が再構築されれば再び過去になるので、彼女等が表に出ていることは亡霊の戯れ事に等しい。


ウィアド本人は最深部で消え行く感情と精神を再構築している。死んではいないが精神が肉体を動かすまでには行かない為、それまでの代理でウルユルの人格が受け持っている。
(但し、既に宿命に半分捉えられていたがゆえ、構築する端から崩れていってしまう。彼女が目覚めるのにどれ程かかるかは本人達も理解していない)


傍からは分からないが過去の存在なため、事象をただデータとして記憶することに徹している。
その為人に対しては過去の応用の対応しかせず、また名前等の情報を認識しない。双子達の感想や感情、言い分は聞けない。あくまで円滑に人間関係を続ける為に応じているだけ。
稀にウルユル本人が語っている様な時もあるが、二人はウィアドでもある為結局はウィアドが望んでいたこととも言える。
(但し、どこまで本当に彼女自身なのかは不明である。或いは本当に双子の意思が入っているかもしれない。どこまでも曖昧を体現している)
基本、問われない限りウルユルと言う事を本人は語らない。また答えてもウルユルと断言はしない。但しこの擬似人格、若しくは亡霊時は一人称が「僕等」が多い。
また、魔力も体力も能力も何ら一つ変わっていないが、戦闘スタイルが冴えてる節がある。
二人が出てきたことは奇跡であり、ウィアドが二人への思いを「諦めたくない」思いの為に少し融通きかせた為に出来た事とも言える。



されど、このことが更にウィアド自身の宿命に拍車をかけている上、本人が語る様に「一度しか」起きない。







(そう、二度目はないんだよ、僕等の可愛い3人目。今度はきっと君は宿命から逃げられないだろう。愛しい、可愛くて可哀相な僕等の約束)
 

とある空白の存在理由

 投稿者:ウィアド  投稿日:2011年 8月14日(日)20時15分53秒
編集済
 





彼女は恨みや妬みを抱けません。
なぜなら、彼女と彼女の最後は、最後まで幸せだったからです。
だからこそ、そんな彼女達から生まれた彼女には、憎悪といった感情が最初から欠けています。
彼女は一生抱くことはないでしょう。
だからこそ、彼女の生きる理由に復讐といったものは存在できません。
どれだけ、彼女の前に空白が広がり。
どれだけ、彼女がそれを恐れても。



彼女が空白に対する生きる理由は、希望でしか代用ができません。
それが果たされた時、彼女が幸せと一緒に泡となって消えることになっても。
(希望が絶望に変われば、真っ逆さまに落ちる事を知っていても)



彼女は自分の為と言う理由で、人の為にしか生きれません。
なぜなら、目覚めた空白の彼女が一番強烈に、鮮明に胸を動かしたのは彼女たちが交わした「約束」の記憶だったからです。
どちらかわからない、どちらでもなかった彼女は、両方の約束を果たす為だけに、空白の中、宿命にあがいて生きてきました。
そんな彼女が、彼女自身が守りたいと、初めて自分自身で宣言した、誓い。
何もかもあって、何もなくて、どうしたいか分からなくとも。
彼女の生きる理由は、たったそれだけでいいのです。




(それすら許さぬ宿命に、嗚呼、私はどこまで抗えるのかな
)
 

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